冬の話


そちらは寒いですか。こちらは今日24度ありました。バレンタインのチョコは全部溶けただろうし、陽気の良さに常連のジジイ共が春の地虫のごとくワラワラと店に集まってきて忙しかった。

そちらの冬で思い出すのは、風呂場の窓の内側に分厚く張った氷だとか、点々とつづく狐の足跡だとか、除雪車が集めた雪山の滑り台、やけに目立つ動物のうんこ(人のかもしれないけど)。
あと、とても静かだったということ。
冬の思い出には音がない。思い出すととても落ち着く。

しばれた朝には、積もった雪の表面が凍って、そろりそろりと歩けば雪に埋まらずどこまでも行けた。面白くて面白くて、除雪された通学路は通らずに、他人の家の畑をいくつも横切って学校に行ったんだ。
深く積もった雪の上を埋まらずに歩けるなんて特別な感じがして好きだった。でも気を抜くとズボッと嵌って、ガッカリしたな。

そういえば除雪すらされないあそこの道を滝壺までズボズボ歩いていくと、滝の水が凍った綺麗な氷柱があるんだ。
思い切り蹴っても全然壊れないとても頑丈な氷柱。でも今の子供はあんなところいかないだろうか。
ちなみに凍った滝の横の崖を山の中腹まで登るとそこにはなんと秘密の洞窟がある。人工的に作られたような穴で入り口には鉄格子が嵌っているんだけれど、何故か鉄格子の左下の部分が外側に捻じ曲げられていて無理すれば入れるんだ。
僕達は
「これは内側からすごい力で明けられている……!中には怪物が封印されていたのかもしれない……!」
とか言って盛り上がってた。
中の構造は一応秘密にしておこう、でも入るときに照明代わりに花火を使うのは危険なのでやめておいたほうが良いよ。

そちらの冬は素敵です。こちらの冬は24度あろうとなかろうと何故かそちらよりも寒い気がするのだ。雪も積もらないし、たまに積もったら積もったで困るだけだし、良いことないなあ。